丸井栄雄<ぴりあど>

<今日の詩>1932.二月
以下引用既出<モダニズム詩集1>より(http://d.hatena.ne.jp/utu/20050319/p2
経歴など全然分からない詩人でも、その一編の詩でもって優に半世紀以上にわたって、読む者に光り輝やかす。それが黄昏時の残光にしても。

<ぴりあど>
人形。お。人形。そうです。僕。は。人形。です。とう。とう。あなた。も。僕。を。抱。いた。瞬間。僕。の。正体。を。知。りました。ね。これで。あなた。とも。おわかれ。です、お。泣。き。なさる。もん。じゃ。あり。ません。さあ。涙。を。拭。いて。僕。の。とても。美。しい。まるで。あなた。みたい。な。僕の。お母さん。の話。を。聞いて。くださいな。
僕。の。お母さん。は。今。赤。い。鳥居。の。ある。村。の。神社。の。広場で。かたん。ことん。の。音。と。いふ。地獄。極楽。の。からくり。の。音。と。どんどこ。どんどこ。と。目茶苦茶。な。轆轤首。の。女。の。叩く。太鼓。の。音。に。はさまれて。一ヶ月。二ヶ月。三ヶ月。四ヶ月。五ヶ月。六ヶ月。七ヶ月。八ヶ月。九ヶ月。十ヶ月。と。十。の。ちがった。お。腹。を。大人。十銭。子供。5銭。で。観。せ。て。ゐます。あなた。僕。は。十人。の。いや。十個。の。お母さん。を。持。つ。て。ゐる。のです。お母さん。は。いや。僕。の。お母さん達。は。昔。から。寒い。風。に。はたはた。と。情。け。ない。音。を、たてる。衛生展覧会。と。かいた。細長。い。旗。と。ね。それから。お。祭り。の。星の。いつぱい。輝。い。て。ゐる。大空。の。淫。ら。な。欲情。を。塞。い。で。しまう。鼠色。の。天幕。と。それから。。。。。。
えー。みなさん。このたび。ご当地。に。まいり。ました。教育。衛生。研究資料。医学博士。綺羅蠅夢氏。御指導。に。よります。胎児。母体中。に。おきまする。一月目。より。十月目。まで。の。くわしい。変化。を。示。し。ました。模型。衛生博覧会。で。ござい。ます。衛生思想。に。ご熱心。な。かたがたは。大人。十銭。子供。五銭。御代。は。観。て。の。お。帰。り。さあ。いらつはい。いらつはい。。。。。といゝながら。角刈。の。男。が。ぱちぱち。木。の。札。を。叩。きながら。とき。どき。ぐい。と。紐。を。ひっぱる。と。がら。がら。がら。と。空。く。幕。と。を。持。って。日本中。年中。賑。や。かな。お。祭。り。を。さがして。は。廻っ。て。ゐる。のです。
人間。たち。の。目。の。まへ。で。僕。の。十個。の。お。母さん達。は。長。い。長。い。昔。の。御殿女中。の。着。て。ゐた。裲襠。の。やうな。着物。の。前。を。だらり。と。はだけて。えゝ。僕。の。お。母さん達。は。みんな。そろって。帯。を。しめる。こと。が。大嫌。い。なんです。それどころか。むっちり。した。お。乳。も。優。しい。お。臍。も。だれに。でも。見。せる。のです。まだ。それどころか。真白。な。お。腹。さえ。いゝえそれどころか。その。白。い。お。腹。さえ。くるり。と。くりぬいて。あゝ。それから。僕。自身。と。九人。の。僕。の。弟。や。妹。まで。も。見。せる。の。です。小。さく。まん。丸く。ちゞこまって。ゐる。僕達。の。姿。美しい。が。冷。い。あの。十個。の。お。母さん達。は。人間。ども。を。軽蔑。し。すぎて。僕達。の。幼。い。影。の。ない。姿。を。誇。ら。しげに。人間。ども。に。見せ。びら。かす。のです。
だのに。十ヶ月目。の。お母さん。の。お。腹。に。いつも。居る。僕。だけは。この。人間。が。うらやましくて。しょうがない。のです。あなたは。冷。い。僕。が。美しい。と。おっしゃる。だ。のに。僕。は。温。い。あなた。がた。の。ほう。が。うらやましい。のです。ですから。お母さん達。と。十個。の。僕達が。薄暗。い。箱。の。中。に。蔵。はれた。とき。そっと。僕。だけ。大人。の。人間。の。着物。を。着。て。あなた。たち。の。ところ。にやって。きて。あなた。の。やうに。美。しい。女。の。人。と。たのし。く。はなし。を。したか。っ。た。ん。です。のに。



 人形に仮託しているんだろうが、僕は、見世物としての母親に晒されるエロの視線を共有しながら、一方、それを恥じいる、少年期のナイーブな、それ故の屈折した感性・エロティシズムとの落差に胸が打れた。>平易な言葉ながら、句読点を旨く使うことで、単語に前後の深みを与えている。
 ところが作品後半、この子(人形)は、当時の<俗悪な>胎内図ならぬ模型である母親に投げられた好奇の眼差しをはねのけて、人間の温かな世界を切実に憧憬して、興行が終わった後密かに人間の世界へ足を踏み入れようとする。が果たしてそれでよいのだろうか?人形を止めて現実界に入ってどうするんだろう?確かに、そこは「温い」世界かも知れないが、人形にとってその分残酷であり、また猥雑な世界でもあるだろう。
 彼にとってはインチキめいた標本のようにホルマリン漬けされた夢である方が良いはずだ。なぜなら、彼の役目は決して生まれてくることにあるのではなく、あくまでも胎内に茫洋と漂っているしかないのだから。