<Fear&Loathing in Las Vegas >by Hunter S. Thompson

utu1986-12-00

Fawcett Popular Library(1971年ローリングストーン誌初出)
         ●<ラスベガスをやっつけろ>で邦訳有り 


本書はラスベガスのオートバイレースの取材に着たトンプソンと相棒が繰りひろげる珍事件を書いたものである。ところがチン事件といっても現実にはほとんど何も起こっていないので、もし、読者が普通のルポルタージュや物語を求めているのならば、少なからず失望してしまうだろう。
この人トンプソンは知る人ぞ知る、ゴンゾー、ドープ記者・作家である。それは書かれる対象がドープに関わっているというだけでなく、著者の彼自身がドープを片時も話さず、愛用しているからである。実際、本書を読んでみると、最初の頁から、二人がラスベガスに向かう途中でドラッグの幻覚にやられるシーンからスタートする。
取材の資金としてもらった300ドルはほとんどドラッグに化けてしまう。葉っぱ二袋、 メスカリン75カプセル、強力なLSD5シート、コカイン、覚せい剤の類、エーテル、アミル剤とくるから先が楽しみだ。
いつもドラッグと酒をやっている二人にとって現実の事件よりも、リアルなのは、なんと言ってもヘッドの中の幻覚、妄想、うわ言であり、そこからすべてが始まり、そこで終わるだろう。
  だが、その反面、その笑いが黒いユーモアであることも確かなことだ。笑い転げながらも、バリウムを飲まされたような、嫌な思いが残る。とういのは、バッドトリップをした者ならこの主人公たちの行動を単に面白、おかしく楽しんでいられないのだ。このヤジさんキタさんよろしくベガスで繰りひろげられる事件というものは、彼らフリークアウトした者の奇矯な観念と現実とのずれ、その衝突からくるものだ。
 このルポルタージュは現実と虚構の境界を取り払う巧みな手法で作られている。そして、この私小説まがいの方法で本書の主題、そんなものは著者の眼中、ヘッドにはないだろうが、ベガスに象徴される「アメリカンドリーム」という舞台に、底抜けに明るい面とやりきれない、絶望的な暗部の照明を投射する。
 ベガスは彼らにとっては、もはや地名の一つに過ぎなくなったことを、つまりアメリカンドリームの終焉・消滅を痛烈にパロディー化して描き切っている。
 だから、腹を抱え笑いながらも、このパロディー、観念と現実の裂け目から吹き出る哄笑に僕たちのトリップをダブらせて見なければならない。そんな覚めた視点がたぶん必要なんだろう。


http://www.gonzo.org/hst/ht/thompson.html