<前衛詩運動の研究>

中野嘉一
大原新生社
S50,8,5

 研究家でも何でもないけど、年表見ているだけでも、すごい。そう思わざるを得ない。
480pに亘る大部な書物。

<詩と詩論>を中心にその前史として詩誌<G・G・P・G>、<青騎士>、<亜>さらに、<薔薇・魔術・学説>等を具体的に見ながら検討して行く。
 しかし何か特定の主義が根拠となって歴史的に総括・批評するというのでなく、時々著者の当時の回想などを交えながら検討するという姿勢、また今ではほとんど入手できない当時の資料(詩作品など)をあげながら、アプローチして行くが、単なる評論家でも研究者でもなく、当時シュルレアリスムとマルクシズムの結合を意図していた詩誌<リアン>同人でもあり、短詩運動にも関わっていた詩人ならでは、の批評眼が効いていて、読んでいるこちらを触発・啓発させるものが随所にある。
 モダニズムとは何か?日本に摂取されたシュルレアリスム等の西洋思潮(思想)がどのように変貌したか?という大きな問題でもある。そして当時の詩人にとって<詩作品>(言葉)が何なの(だったの)かと言う問いでもある。
 この巨大な問いであるとともに、自分の詩についての問いかけ、これらに対する著者自身の返答が地道な資料収集とその読解を通して本書の形なったのだろう。戦前の詩について関心があるものなら、一度は目を通さなければならない、多分70年代の、否、戦後の秀抜な詩論・私論である。
 著者が、詩・自己と時代との関係につき検討し、そこで紹介していた、<詩と詩論>の後続雑誌<新領土>や<二十世紀>からの、当時の国粋主義者提灯持ち・プロパガンダをしていた<日本浪漫派>批判は興味深かった。
<文学>(<詩と詩論>の改名後)第4冊S7,12,16厚生閣書店 古賀春江装丁

同書からの年表(当時のブルトンらのシュルレアリスム運動も収録されていて日本との関係がよく分かる)で気になった部分(戦前)とりあえず抄録させてもらいます(自分メモ)


1921(T10)
近藤東、竹内隆二、棚夏針手ら<君と僕>創刊
<ダダ主義とは何か>(読売)川路柳虹に掲載
<日本未来派宣言運動>平戸廉吉街頭ビラ配布

1922
未来派の勝利>神原泰<思想>に掲載
青騎士>名古屋で春山行夫、井口蕉花ら創刊
<ダダの話>(改造)辻潤

1923
赤と黒>萩原恭次郎壺井繁治ら創刊
ダダイスト新吉の詩>高橋新吉
<こがね虫>金子光晴

1924
<ダム・ダム>小野十三郎、林政雄ら創刊
<売恥醜文>吉行エイスケ、清沢清志ら創刊
<Ge.Gimgigam Prrr Gimgem>(ゲ・ギムギガム・プルルル・ギム・ゲム)
橋本健吉(北園克衛)創刊
マヴォ村山知義ら創刊

1925
<月下の一群>堀口大学
<三半規管喪失>北川冬彦
<詩之家>佐藤惣之介創刊

1926(T15,S元年)
<近代風景>北原白秋ら創刊
<椎の木>百田宗治ら創刊

1927
<馥郁タル火夫ヨ>西脇順三郎滝口修造、中村喜久夫、
佐藤朔、上田保、三浦孝之助ら創刊
<薔薇・魔術・学説>富士原清一、北園克衛山田一
上田敏雄、上田保ら創刊


1928
<詩と詩論>春山行夫
<太陽の衣裳> <馥郁タル火夫ヨ>と<薔薇・魔術・学説>が合同し、創刊
<Cine'>山中散生創刊
<リアン>竹中久七、潮田武雄、渡辺修三ら創刊
<軍艦茉莉>安西冬衛
<仮説の運動>上田敏
<白のアルバム>北園克衛
<植物の断面>春山行夫
<超現実主義詩論>西脇順三郎

1930
<Le Surre'alisme Internationale> 富士原清一編
シュルレアリスム詩論>西脇順三郎
<地獄の季節>ランボオ小林秀雄訳)
<超現実主義と絵画>ブルトン滝口修造
<超現実主義研究特集>(アトリエ)
形式主義芸術論> 中河与一
<超現実主義絵画論>阿部金剛
<詩・現実> <詩と詩論>から北川冬彦、神原泰脱退し創刊
<ポエジイ>中野嘉一、小関茂ら創刊

1931
ユリシーズ>ジョイス伊藤整ら訳)
<詩の研究>春山行夫
<平戸廉吉詩集>

1932
<パリ東京新興美術展>(アルプ、ミロ、エルンスト、タンギー、ピカビアの作品展示)
<詩と詩論>改名し<文学>創刊
<シルク&ミルク>春山行夫
<抒情詩娘>近藤東

1933
<サーカスの景>古賀春江二科展
<Ambarvalia>西脇順三郎
<円錐詩集>北園克衛
純粋詩とフォルマリスム>春山行夫
<芸術派即物性文学の特質>(文学1)笹沢明美
<ダダと超現実主義>滝口修造
ペリカン島>渡辺修三
<行動主義文学論>竹中久七
季刊<四季>堀辰雄ら創刊
<文学>廃刊12

1934
<シェストフ的不安について>三木清(改造)
<詩精神>小熊秀雄ら創刊2
<古き世界の上に>小野十三郎
<詩法>近藤東ら創刊8

1935
<20世紀>饒正太郎、桑原圭介、小林善雄ら創刊
<日本浪漫派>保田与重郎、神保光太郎ら創刊3〜S13,3
<歴程>逸見猶吉ら創刊
山中散生詩集>
<Vou>北園克衛創刊7
<四季>堀辰雄三好達治丸山薫ら創刊10〜S19,6

1936
<童貞女受胎>ブルトン・エリュアール(山中訳)
<不眠の午後>岩本修蔵
<花とパイプ>春山行夫
<いやらしい神>北川冬彦
<藍色の蟇>大手拓次

1937
東京で<海外超現実主義作品展>
<アルバム・シュルレアリスト滝口修造山中散生
<神戸詩人>創刊
<シュルレアリズム>福沢一郎
<文抄>(ふんみょう)創刊4
<新心理主義文学論>伊藤整
<新領土>村野四郎、近藤東、春山行夫、上田保ら創刊〜S16,1
<妖精の距離>滝口修造10

1938
<サボテン島>北園克衛
<近代芸術>滝口修造
<カルト・ブランシュ>沢渡恒、三木偵、山田有勝ら創刊
<紀>創刊(詩之家、リアン関係)

1939
<槐>小熊秀雄ら創刊
<寓話>藤田三郎
<過去>西山克太郎
<体操詩集>村野四郎

1940
<Vou>改名し<新技術>(転向)
神戸事件(<神戸詩人>同人検挙)

1941
滝口修造、福沢一郎検挙
広島のシュルレアリスト検挙
<歴程詩集>2
<新領土詩集>4
<万国旗>近藤東7
リアン同人検挙12

1942
マチネ・ポエティク・グループ>中村真一郎加藤周一福永武彦ら結成