<指紋> 佐藤春夫

モダン都市文学Ⅶ(犯罪都市
H2,9,20平凡社 川本三郎編収録(借り物)
(元 中央公論T7、7月号) 
以下引用同書収録より

友人の阿片ジャンキー物語ウソ!
ホントは探偵小説>ジャンキーで神経衰弱の友人を世話する私もどこかおかしくなるてところでしょうか

友人が長崎でアヘン吸引中に見知らぬ男の死体を発見
自分が殺したのか、また他の者か
鍵となるのが金メダルについていた指紋
その当時はやりの浅草の活動写真を見に行って、たまたまスクリーンに真犯人のクローズアップされた指紋が・・・
推論推理よりもやはり主人公の友人が見る阿片の夢シーンがいい。
湖上に浮かぶ騎士と長い槍、茫漠たるシーンだが嫋々たる雰囲気があって、こんな風に始まる

私は何時ものとおり阿片に耽っていた。そうしてうつらうつらと魔睡の夢を見つめて居た。その夜自分の夢に現れたのは、一面の湖水を前景にしてーその湖水は実にたびたび私の夢に現れたものだが、それは非常に静かで、もっとも碧く、海よりももっと曠漠として居た。

まー谷崎潤一郎同様、ド・クインシーのオピウム・イーターに触発され書いたものだろうが、洋ものの方(荒唐無稽のトリップ)よりこちらの佐藤の方が遙かにいい。

ぼくは探偵小説は好きだ。しかし、どうも探偵小説のための探偵小説愛好家ではないようだ。奇怪な筋が、たといどんなに科学的に組み立てられていても、その機械の動力として作者たる芸術家の思想的情熱なり、詩趣なり、人間的観察なり、その他すべての芸術に必要な何ものかをその根底に持っていないものは、筋を知ってしまうと面白くないものである。指紋の頃(新青年S4,3月号)

同感。