種村季弘の寄木細工

<影法師の誘惑>
河出文庫
どれもヤッパ面白すぎる
で<<十二階の崩れた日>>から
 
先ず、中国の魏の文帝が築造させた凌雲台から始り
押絵と旅する男>、砂男をさらりと復習し
「崩壊」で
 寺田寅彦のエッセイで大正文化のシンボルであった十二階が震災で焼け残り、その残骸を完全に爆破崩壊させる場面の引用
ついで、唐突に、
「空襲」
 時代変わって第二次大戦敗戦直後、米兵が女の青カンをしているのを石を投げてオチョくり、その隙に他の仲間と軍事物資をチョロまかしたり、またシケモク蒐集でインチキタバコを作り売りさばく、なんと種村自身の体験談を開陳
かとおもうと、またもや震災にワープして
震災後の焼け跡をふらふらしている人物に焦点を当てる
「大震災」
「恋文」 
 で以下梅原北明門下の斉藤昌三著奇書<変態蒐癖志>を案内人として池田文痴庵のラブレター蒐集や
「猥褻袋」(ルーデンサック)蒐集 
二笑亭」の奇矯ぶり
燐票」蒐集
等に触れ、
「復興」で日和下駄の永井荷風を登場させ(擬江戸趣味・韜晦)
「没落体験」
「焼土」で最後誰を称揚するかと思えばあのJ・Jおじさん植草甚一というオチ。
軽妙な文でいて、最後どこへ連れて行かれるや、ハラハラドキドキ
最後には、うーんうなっちゃうしかねぇ、ペテン師種村!

 単に大正文化の大らかさがみせた蒐集(コレクション)・趣味のナンセンスを検証しているのではなく、自身の空襲体験後を巧みに寄木細工(コラージュ)させ、こう語っている点が興味深い。>種村自身のことだよな

蒐集家はいわば、かつて自分が所属した世界が没落した後、自分が属しているのではない新しい見知らぬ世界に一人ぽつんと取り残されているのである。そこで一種の空間恐怖衝動が起き、身のまわりを廃物や襤褸でびっしり埋めておこうとする。