魔術師(水島爾保布、名越国三郎とか)

手元の中央公論<谷崎潤一郎全集4>(S42.2.25初、同48.1.10普及版)月報S42.2後記
1917(大正6)年 
1月「魔術師」を『新小説』に発表
同年4月人魚の嘆き>春陽堂
(人魚の嘆き、魔術師、病辱の幻想、鶯姫収録)
名越国三郎挿絵4枚魔術師と鶯姫の挿絵二枚で発禁
とあり、また
http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20050613によれば

1919(大正8)年 
『人魚の嘆き・魔術師』を春陽堂から刊行、水島爾保布(36)の装画は谷崎自ら頼んだもの(今日泊亜蘭の回想)。

比較的初期作品の一つ
<名作挿絵全集第3>平凡社1980.10.31より以下画像

谷崎と浅草の関係についてボクはよく知らないが、この作品<魔術師>で主人公のイマジナルな人口楽園めいた公園が浅草の公園と対比して次のように描かれている。(元、旧仮名遣い)

「・・・・・浅草六区に似て居る、頽爛した公園であったと云って置きましょう。
若しも、あなたが、浅草の公園に似て居るという説明を聞いて、其処に何等の美しさも懐かしさも感ぜず、むしろ不愉快な汚穢な土地を連想するようなら、其れはあなたの「美」に対する考え方が、私とまるきり違って居る結果なのです。私は無論、十二階の塔の下に棲んでいる"venal nymph"の一群を指して、美しいと云うのではありません。私の云うのは、あの公園全体の空気のことです。闇黒な洞窟を裏面に控えつつ、表に廻ると常に明るい歓ばしい顔つきをして、好奇な大胆な目を輝かせし、夜な夜な毒々しい化粧を誇っている公園全体の情調を云うのです。・・・・・」

まだ震災前で十二階の白首のことを"venal nymph"なんて婉曲的表現を使っているが、いいな。

 <私>は恋人と闊歩しながら魔術師の小屋にはいる。
そして魔術師「魔術のキングドム」の王が掛けた『人身変形法』なる妖術によって<半羊神>(フアウン)になるという話。英の作家ド・クインシーを連想させる物語でもある。

 例によって、うねうねとした文体(これがタマんないです)で、活動写真、<Fantomas>、そしてエドガー・アラン・ポー<黒猫><落穴と振子>や画家ゼガンティニ<淫楽の報い>(未観)、ベックリン<死の島>等も引き合いに出されているがなんといってもボクが注目したいのはメスメリズム。

最も私の好奇心を煽った23番の例を挙げれば、第一にメスメリズムと云うのがあります。これは小書きの説明によると、場内の観客全体に催眠作用を興させるので、劇場内のあらゆる人間が、魔術師の与える暗示の通りに錯覚を感じるのです。

 見方によれば、私自身がメスメリズムにかかり夢遊病者のように独白しているに過ぎないかも知れない>これがオチか

ところで、発禁の憂き目にあった件の名越国三郎て?
下引用平凡社の本P84によれば、早くから世紀末やアールヌーボーを摂取、画集<初夏の夢>
次代の岩田専太郎や、山名文夫に影響を与えたようだ。



(P399平凡社S2.10.5<現代大衆文学全集第三巻江戸川乱歩全集>より)
下の方なかなかビアズレーばりの妖しい雰囲気